地域ニーズ×自分の強み。 関わり、つながりから見えてきた次の目的。
- 職業
- ガット張替え職人
- Uターンルート
- 滋賀→岐阜→大阪→東京→大阪→滋賀
- お名前
- 横田吉弘さん
- URL
- ガット張替え専門店スグハル
テニスやソフトテニス、バドミントンといったスポーツをする方にとって、必需品であるラケット。このラケットに張るガットの専門店が滋賀県にあることをご存知でしょうか?
今回お話を伺ったのは、草津市にあるガットの張替え専門店「スグハル」の横田吉弘さん。
滋賀県初のガット張替え専門店を始めようと思ったきっかけとは?なぜ滋賀県に帰ってきたのか?開業するために必要なこととは?など、今までの経緯とUターンを考えている方へのアドバイスをお伺いしてきました。
8年勤めた会社を退職。“自分で何かをしたい”と、Uターン。
滋賀県有数の進学校を卒業後、岐阜県内にある大学の農学部に進学。当初は大学院に進み、理系の会社に就職後、研究職に就くイメージを抱いていた横田さんですが、実際に就職活動を始めた段階から「いつか自分で独立できる仕事」を描くようになったといいます。
コンサルや銀行などいろいろな業界の就職試験を受け、最終的には、当時興味があったファッション、インテリア業界を選択。ベルメゾンを始めとしたカタログ通販事業を主とする「株式会社千趣会」に入社。就職先は大阪でしたが、手を上げて東京に異動したことも。仕事の内容は、主にレディースファッションのバイヤーや企画。
そして、8年間勤めた会社を退職。
滋賀県に帰りたいから会社員を辞めたというよりは、“自分で何かをしたい”との思いが湧き、勢いで会社を辞め、滋賀で何かを始めようと思ったという流れですね。この段階ではまだ“はっきりと定まっていた”わけではありません。
半年間いろいろと模索しながら、当時通っていたテニススクールのコーチに相談。コーチは自分でテニスショップを立ち上げていました。「好きなことで生きていきたい」と思い、修行をさせてほしいと願い出ました。
1年半修行した後、2017年10月に「スグハル」をオープン。今に至ります。
物を売ることではなく、サービスに特化したカタチをつくる。
流れとしては、滋賀県でテニスショップを開くほうが自然な印象を受けます。しかし、横田さんが選んだのは「ガット張替え」という専門サービスの道でした。
今は、物が売れる時代ではなく、安い物はインターネット上にたくさんあります。自分という武器で戦っていこうと考えたときに、物を売るよりも自分がサービスを提供する形が浮かびました。
元々、自分で何かをしたいという思いを持って社会人になったこともあり、開業資金はある程度貯めていました。ただ、お店自体は内装を仲間で壁を塗ったり、レジ台を作ったりと、DIYの部分が大きいです。そのため、一般的に開業する費用以上はかかっていません。
スグハルの立地は、大通りに面しているわけでもなく、常に店の前を大勢の人が歩いているわけでもありません。また、テニスコートやスポーツショップが隣接していることもなく、どちらかと言えば、店舗には適していない印象を受けます。
オープンして最初の数ヶ月は、どうだったのでしょうか?
修行を始めた頃から、ほぼ毎週テニスの練習会を開催してテニスの仲間作りをしていました。そのおかげもあって、最初の3日間は、仲間が遊びに来てくれたり、ご祝儀がてら張りに来てくれたりと賑わっていましたね。新規のお客様が来てくださったのは、オープンから5日後。その後は思ったほど来店客数が伸びず、滑り出しはゆっくりでした。
着実にひとつずつ進もうと考えていた横田さんは、HPやブログなどSNSによる情報発信を続けます。さらに、テニスコートに出かけて練習中の人にチラシを配ったり、大会に出かけて出場者にチラシを配ったりと、地道な営業活動を行っていました。
最初は緊張しましたが、慣れれば大丈夫です。もちろん断られたこともありますが、結構受け取ってくださいます。最初の頃のお客様は、チラシを見た方やテニス仲間の紹介が多かったですね。今は、ネットから来ましたという方も結構いらっしゃいます。
ガット張りだけで食べていける?生計を立てた先にやりたいこと。
Uターンした後、開業し生計を立てていけるのかどうか。多くの人が気になる部分ではないでしょうか?横田さんも、周囲から「成り立っているの?」「副業してるんですか?」と言われることも多いといいます。
世の中からみれば、上手くいっていないと思われているからこそ、チャンスがあると思っています。ただ、今は実家暮らしだからこそ、成り立っている部分がありますね。いつまでもこのままでは良くないですし、サラリーマン時代の生活レベルにはしていきたい。
自分が生活できなければ、お店も継続できません。お店を続けて行くのは、地域においての責任でもあります。だからこそ、ガット張替えを主軸に置き、依頼数を安定させ、回る仕組みを目指しています。
さらに、横田さんは“子どもたちがテニスに触れる機会を設ける環境づくり”について考えていました。現在、野球やサッカーがしたい子どもたちには、スポーツ少年団があります。ソフトテニスやバドミントンにも、近い形があるといいます。しかし、硬式テニスに関しては、ほぼゼロ。小学生がテニスを始めたいと思った場合、商業的なテニススクールに通うことが一般的だそう。
「もう少し気軽にテニスを始めてもらいたい」と思うようになりました。思い描いているのは、地域の力を合わせてつくる、スポーツ少年団。近隣企業のテニスコートをお借りして、近隣大学に通うテニスが得意な学生さんにコーチ役をお願いする。地域の力を合わせて、地域の人のためになる環境づくり、仕組みづくりができたら面白いんじゃないかなと。
ただ “地域”というキーワードは、最初から持っていたわけではありません。お店を運営する中で、お客様から困っていることを聞いたり、お客様が増える中で新しいサービスを思いついたり。行動することが、インスピレーションに繋がっていきます。
目的は、単なるガット張りではない。スグハルの今、そしてこれから。
スグハルで取り扱っているガットはおよそ80種類。今まで使用していたガットや、プレーの内容、切れる頻度を伝えることで、いくつかの商品をおすすめして貰えるため、初心者の方も安心です。さらに、業界の常識として、ガットの張替えには、1〜2週間かかることが一般的とのこと。
「すぐに使いたいのに使えない」「その期間、自分のラケットで練習ができない」「予備に複数のラケットが必要」など、様々な問題を解決するため、最短19分で張替えができることをPRしています。
またガット張替え以外にも、練習会や練習試合も開催し、テニスやソフトテニス、バドミントンのプレイヤーの練習環境全体のサポートを行っています。
そもそも、私の目的はガットを張ることではありません。大切なことは、お客様のテニスが上達すること、楽しくテニスができる環境をつくること。ガットの提案も、すぐにガットを張ることも、サポートも、すべてこの環境づくりにつながっています。
2018年6月現在、スグハルの提携店は、滋賀県内に5カ所。中古車買取店、イタリアンレストラン、瀬戸物店、企業、移動販売店と、ジャンルは様々ですが、どれも地域密着のお店です。
実店舗に足を運ぶことなく、家や学校、会社の近くの提携店でラケットを預けて、張替えたラケットを受け取れることは、お客様にとって大きなメリットと言えるでしょう。さらに、提携店側にもメリットがあります。
例えば、人が車を売却するサイクルは約8年だそうです。普段、中古車買取店に足を運ばない人が、ラケットをきっかけに来店し、いつか車を売ろうと思ったときに「そういえば・・・」と、思ってもらえる、来店ハードルが下がるというメリットを、提携先の方も感じてくださいました。
ガット張りをきっかけに、地元のお店を知る。親しみを持つ。さらに、地域でお金が循環する仕組みが生まれ、地域貢献になる。横田さんのチャレンジは、まだまだ始まったばかりです。
滋賀県にUターン後、開業したい人に伝えておきたいこと
最後に、横田さんに滋賀県で開業したい方に対して、伝えたいメッセージをお聞きしました。
Uターン後、自分で商売をするメリットとして私が感じたのは、地元のつながりがある点です。全く新しい場所で始める場合、ゼロからのスタートになります。でも、中学、高校の同級生、私の場合はテニス仲間など、何かしらのつながりがあるはず。
そのつながりが、応援やお店づくり、お客様としての来店など色々な形になっていくと思います。そういったつながりを大切にしていくことで、滑り出しはゆっくりでも、継続してやっていけるのではないでしょうか。実際、私も色々と助けてもらっている部分は大きいです。
あとは、滋賀県だからどうこうではなく、各地域で必要とされていることを見つけること。そこで、自分の強みが発揮できると思ったなら、まずは行動に移してみてはと思います。その結果が、形になって現れるのではないでしょうか。
取材を終えての感想
何気ない会話から、次の目的が見つかったり、相手の困りごとを解決するための方法を考えるようになったりと、目の前のことをひとつずつ着実に進めておられる印象を受けました。また価格競争ではなく、サービスに注目する仕組みは、個人で専門店をやりたい人にとって、とても役に立つのではないでしょうか。
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