地元の“色”を残したい。 自己流×周囲との関係づくりが築くものづくり。
最初は、就職して働いていました。革と出会ったきっかけは、妻の母です。革靴などをつくる人ということもあり「あんた器用そうだから、これで何かつくったら?」と、余った革をくれました。もともと、ものづくりは好きでしたね。大阪に住んでいた頃も、好きな服がなければ自分でつくろうと、着物をばらして反物にしてパンツをつくったり、和柄の鞄を作ったり。芝居で使う小道具も、手づくりでした。
人に習うことが苦手なので、自分で本を読んで研究したり、失敗しながらも自分でやってみたりして、納得しながら進むほうが好きですね。教えられるがままにどんどん進んでも、いざ何かあったときの対応ができません。過去の自分の経験や知識を元に「あの時のアレが活かせるのでは?」と自己流で組み立てていきます。
建築屋さんと出会い「べんがらを塗っている家は、今後、おそらくなくなるだろう」との話になりました。自分の家の周りをみると、柱も壁も全部朱色。でも、最近の家は洋風建築が多く、和風でも無垢材を使う傾向にあります。寂しいなと思いましたね。
べんがらの朱は、私にとって、地元の色。なんとかしてこの色を残すことができないかと考え始めました。
一般的な革の塗装は、ムラがないですよね。でも、私はわざと刷毛のラインを出すようにしています。柱の木目が一本ずつ異なるようなイメージ。手間も時間もかかりますが、今も刷毛塗りを続けています。
開業届を出したのは、2017年8月。まだ軌道に乗っているとは言えない状態ですが、厳しいからと尻込みしていても仕方ないなと。田舎のいいところは、人情味のある人が多いこと。今も商工会の方に助けてもらっている部分も多いです。多分「自分一人でしなあかん」と思わないほうが、いいですね。
私はつくり手の側ですから、作業場にこもって、ずっと机の前で仕事をすることになりがちです。それでは、顔を知ってもらう機会もなく「お前誰やねん」となる。作品を見てもらえる機会もなくなります。
私の場合、開業ノウハウもなかったので、勉強しようと創業塾に参加しました。それから商工会とつながり、長濱レザーを気に入ってもらい、プレスリリースという形で発表。さらに市役所の方に見ていただき、長浜市ふるさと納税の返礼品としても登録が決まりました。
それから、県内外のマルシェにも出店しています。やはり、見ていただかないことには始まりません。知らないものは、存在していないのと同じこと。悪あがきでも暴れていないと、消えてしまいますから。
遊ぶところがない、特に何か面白いものがあるわけでもない。昔は映画館があったけれど、それも無くなって娯楽がない。高校生の頃は演劇部に所属していましたが、お芝居をする場所もなければ、ここでしても一体誰が見に来るんだと思っていました。
今は、面白いものばっかりやんって思います。べんがらも含め、独特の雰囲気がありますね。それから面白い人も多い。自分がちゃんと土地を見ていなかっただけやなと。ちゃんと見ると面白い。車に乗っていたら、周りの景色の良さもわからないけれど、歩いていたら「この花可愛い」と、細かな部分にも目が行くのと一緒。
ただ、やっぱり外に出たからわかることは大きいですね。
例えばお芝居であっても、潰れた小屋を改装してやればいいというだけの話。やる側と見る側がいれば成立します。商売も同じ。売る側と買う側が入れば成立する。東京と滋賀県で言えば、人数やメディアの数が違うだけで、多分、比率は一緒でしょう。そう考えると、私の考えていることも滋賀県で実行可能だと思っています。
現在は祖父母が住んでいた離れをDIYし、自宅兼工房としていますが、2018年度中には、長浜市の中心地域にアトリエをつくる予定です。「MATCH Leather Works」の公式HPやSNSにて、随時情報を発信していますので、ぜひご覧ください。
滋賀県とひとことで言っても、地域によって異なるとは思いますが、もし、田舎に帰ってこられるのであれば、自分の顔と名前を売るほうがいいです。田舎の人間は警戒心が強いことが多いですが「あの兄ちゃん、なんか謎やったけど、喋ってみたらええ奴やん」となると、協力が得られやすいです。
それから、市や商工会さん、民間さんも、創業塾など起業、開業の手助けとなる講義やプログラムを開催してくれていますので、自分で調べて、色々顔を出してつながりを得るといいかなと。個人で何かを始めるにしても、ひとりの力では限界があります。
なるべく顔と名前を出すようにすると、声をかけていただく機会も増えますし、外の世界での広がりもできていきますから。
一番しなくていいと思うのは“ビビって何もしない”ということですね。こんなんしたら怒られるんちゃうかなって思っている時間は無駄です。何もしないよりは怒られたほうがまだマシ。そういう気持ちで、チャレンジして欲しいですね。