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U-TURN

人生の計画を前倒し!地元の女性が活躍できる場所づくり。

職業
カフェオーナー
Uターンルート
滋賀→アメリカ→滋賀
お名前
滝下茜さん
URL
UPPER SECRET




湖南市にあるJR甲西駅からほど近い距離にある、洋風カフェ「UPPER SECRET(アッパーシークレット)」。アメリカンスタイルの焼き菓子や、湖南市の特産品である弥平とうがらしを使った「弥平CHILIとまとカレー」が楽しめるお店です。

イベントの多さも、特徴のひとつ。アイシングクッキー、コーヒー、紅茶のスクール、そして英会話教室からカフェキッズ体験のワークショップと、人が集まる場を提供しています。

今回、インタビューしたのは今年、オープンから6年目を迎える、UPPER SECRETオーナーの滝下茜さん。

カフェを始めようと思ったきっかけとは?どうして滋賀県にUターンしたのか?食事の場だけでなく、イベントスペースを提供する理由とは?など、Uターン&カフェ経営を目指す方のために、いろいろお伺いしてきました。





滋賀県湖南市からアメリカの大学へ。インテリアデザインを学ぶ。


高校生になり、周りが進路を考え始める時期。しかし、滝下さんはどうしても日本の大学に進学するイメージがどうしても湧かなかったといいます。小学生の頃から海外に対して憧れを抱いていたこともあり、アメリカの大学に行くことを決意。どちらかと言えば英語は苦手だったそうですが、持ち前の行動力で新しい世界に飛び込んでいきました。

留学の目的は、日本では得られない感覚を身につけること。当初、ファッション関係の勉強がしたいと考えていたものの、留学先であるオクラホマ州は自然豊かな田舎町。ファッションの勉強をするには厳しいと感じ、インテリアデザインに方向転換。

滋賀県湖南市を飛び出して、アメリカへ。驚きの行動力ですが、当初、滋賀県に戻ってくる予定はあったのでしょうか?

元々大学を卒業したら、日本に戻る予定でした。ただ、一緒の学科にいた友達が、ニューヨークのマンハッタンにあるデザイン事務所で勤務していたので、すぐに帰国するのは勿体無いなと。実は、アメリカの大学を卒業すると1年間仕事をすることができます。卒業お祝いビザのようなものですね(笑)せっかくの機会だと思い、私も卒業後、マンハッタンに行きました。


友達を頼り、マンハッタンへ向かった滝下さん。居候をしながら就活を続けていると、インテリアデザイン会社を経営する日本人との出会いがありました。アシスタントを募集していると知り、応募したところ見事採用されたのです!



盲腸と、リーマンショックを機に、帰国を決意。


仕事を続けるうちに、会社の状況が変化したり、このままアメリカで働き続けることに対する迷いが生まれたりしたため、半年ほど経った後、退職。その後、突然の痛みに襲われ病院に行くと、盲腸と診断。即手術となりました。ここで、アメリカの保険制度が日本と全く異なることを知ることに。アメリカに滞在し続けることの意味を本格的に考え始めたとき、リーマンショックが起こります。

一気に求人の数も減り、仕事を見つけることも難しい状態でしたね。日本に帰ろうと決め、帰国する前に見つけたのが、兵庫県にあるインテリアデザインの会社です。面接の約束をしてから、帰国しました。


世界的な大不況による就職難。しかし、帰国前に次の職をしっかり探すなど、かなり計画的に動いている印象を受けました。採用され、半年ほどインテリアデザイン事務所で勤務した後、地元である湖南市にUターン。


インテリアデザインとカフェ経営。少しジャンルが違うような印象がありますが、彼女の中でこの2つは、しっかりつながっていました。


元々、大学でインテリアデザインを学ぶ中で気になっていたのが“カフェ”でした。ただ、当時は仕事をリタイアした後、余生にのんびりやるようなイメージ。でも、地元・湖南市に戻ってくることを考えたときに、会社勤めをする自分は全く想像できなくて。人生設計では、まだまだ先だと思っていたカフェでしたが、前倒しして始めようと思いました。


湖南市には喫茶店やカフェがなく、自分が欲しいという気持ちもあったといいます。さらに背中を押したのは、湖南市の農業女子の2人。同じ湖南市で新しいことを始めようとしていた2人にいろいろ相談していたこともあり、後に続く形で、行動を開始しました。

Uターン後、次の行動のきっかけが掴みにくい。そう考える人は、同じような起業仲間に相談することで、良い刺激を受けるかもしれません。




アルバイトと飛び込みによる情報収集をスタート!カフェは、やりたいと思って行動したら、できる。


飲食店業務経験がほぼゼロだったという滝下さん。留学中には学区内アルバイトが許可されていたため、カフェテリアで働いていたものの、仕入れ方法など一切知らない状態でした。そこで始めたのが、タリーズコーヒーでのアルバイトです。

アルバイト期間は約1年。働くことで、仕入れルートや動き方など、カフェを開くにあたって必要な勉強ができると思いました。開店準備も、同時進行です。ただ、食材などの入手ルートは、最終的に飛び込みで見つけました。「カフェを始めたいのだけれど、どうすればいいですか?」と尋ねて、ひとつ繋がって。「じゃあ食器屋さんを紹介してあげるよ」と、それから、次々と。

最初は調理師免許が必要だと思っていたのですが、調べていくうちに必要ないとわかりました。カフェは、やりたいと思って行動した人ができるものだと思いましたね。


行動力を元に、やりたいことを形にしてきた滝下さん。5年が経った今、カフェ経営を続けてきた中で感じる楽しいこと、辛いことを尋ねてみました。


私は、1の力よりも2の力、2の力よりも3の力だと考えていて、元々、一人でやろうと思ってカフェを開いたわけではありません。自分にできないことは、できる人にやってもらえればいいという考え方。ただ、経営者は私で、誘った人はスタッフです。しんどい部分の大半は、その人たちにちゃんとお給料が払えるかどうか。最初からシビアに人件費を計算していたら、誘えなかったかもしれません。

ただ、アルバイト募集は、求人を出したわけではなく、地元の先輩や同級生に声をかけた形です。女性は技術系の職に就いている人でも、結婚や出産などのターニングポイントがあって、仕事を辞めざるをえないときがあります。それまでに身につけたスキルの使い道がなくなるのは、とても勿体無い。仕方がないことかもしれないけれど、どうにかして活かせる場をつくれないかなと思っていたので、スキルを活かしてもらえる場所、働く場を生み出せたことは、嬉しいですね。




アメリカで芽生えた「コミュニケーションが取れる場所をつくりたい」との思い。


アメリカに行くまでは、滋賀県や湖南市は、単に自分が生まれ育った場所という認識だったという滝下さん。しかし、アメリカに行ったことで、日本とアメリカとの違いに気づいたそう。

日本は、真面目できっちりしている。アメリカは、結構適当。でも、問題なく回っている。その理由は“全てをきっちりしなくても、ポイントをしっかり押さえておけば最後は同じところに行き着く”から。

決してアメリカかぶれではなく、両方の良さを見る視点は、留学経験がもたらしてくれたもの。さらに、インテリアデザインの勉強をかねて、カフェやショッピングモールを訪れていたときに、もうひとつ驚いたことがあったようです。

カフェにいると、知らない人に「どこから来たの?」と、声をかけられるような軽いコミュニケーションは日常茶飯事。外国人だから話しかけられるのかと思っていたら、そうでもなくて。初対面の人同士が、その場で意気投合して時事ネタまで話す場面を何度も見ました。その一瞬、フレンドリーな空間をつくることがとても上手。日本でも、こんな風にコミュニケーションがとれる空間をつくることができたら素敵だと思いました。


他のカフェに比べても、UPPER SECRETではワークショップや教室が多く開催されている印象があります。そのきっかけは、アイシングクッキーを頑張ってつくっているスタッフがいたこと。オープンから1年ほど経ち、アイシングクッキーのブームが来て、各地で教室が始まっていたこともあり「UPPER SECRETでもできるのでは?」と、チャレンジすることに。


日本人同士、食事中に見知らぬ人同士が話すことは、ほとんどありません。グループで来ていたら、なおさらです。でもワークショップや教室を開催すれば、話す機会が生まれます。「楽しいことが生まれたらいいな」との気持ちで始めたところ、初めて会うお客様同士、コミュニケーションをとってくれて。嬉しかったですね。



滋賀県は、自分次第で面白みが生み出せる土地。



滋賀県湖南市からアメリカへ。兵庫県を経て、湖南市にUターン。今の滝下さんの目には、地元はどのように見えているのでしょうか。

地元に密着した仕事を始めて思うのは“なにもない”ではなく“掘り起こしていない”ということ。いいものはいっぱいあるけれどうまく使えていない印象です。例えば東京には、いろいろなものがありますよね。でも私は、どちらかというと最初からあるものに対してはあまり関心がなくて、ないところから作り出す方がすごいなと思うタイプです。だから、滋賀県は自分次第で面白みが生み出せる土地だと思っています。

カフェをオープンして5年。挑戦の5年であり、これからは残すものと削るもの、そしてどこに重きを置くかを見極めていきたいとのこと。減らすだけでなく、常にブラッシュアップを目指す、滝下さん。ふと「雇われる人」になりたいと思うかどうかを尋ねてみました。


ありますね(笑)不安になったときは、安定を求めたくなります。だから、雇われの身になりたいと思わないことはないですね。でもいいことがあれば、やっていてよかったと思います。常連さんの存在に支えられているところも大きいです。だから続けているのかなと。



最後に、滝下さんに飲食店の開業を目指す方に対して、伝えたいメッセージをお聞きしました。

戻ってくると決めた方には、やりたいことがあるならとりあえず動いてみると良いと伝えたいですね。私はカフェの準備をしているときも、どうすればいいのか迷っている時が長かった。でも動くといろいろなところからヒントが出てきます。それは、自分が動かなければ見えてこない部分。考えていても何も起こりません。とりあえず動いてみませんか?




取材を終えての感想


私が特に印象に残った言葉が「1の力より2の力、2の力よりも3の力」です。滝下さんの場合、学生時代などの友人・知人といった古くからの知り合いに、新しい出会いによる人間関係が加わることで、より幅広い、厚みのある関係を築くことができているように思いました。まさに、Uターンならではの強みです。

同時に、経営者として雇用を生み出すことに対する責任の重みを考えさせられました。しかし、「カフェがやりたい!」「コミュニケーションが取れる場所をつくりたい!」という気持ちと、行動力が、今の滝下さんをつくりあげたのだと思います。

頭の中で考えているだけでは、何も始まりません。まずは小さなことからでも行動を始めること。これは、カフェの開業だけに限らず、Uターン全体にも言えることではないでしょうか。

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