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PRODUCT DESIGNER
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U-TURN

滋賀で働くことは全く考えていなかった。 「VOID A PART」と「HACOMIDORI」誕生までの経緯。

職業
プロダクトデザイナー
Uターンルート
滋賀→東京→滋賀
お名前
周防苑子さん
URL
HACOMIDORI



彦根市の湖岸沿いに佇む、アトリエカフェ「VOID A PART」。クラウドファンディングサイトにより名前を知った方、雑誌で見たことがあるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回お話をお伺いしたのは、彦根市にあるアトリエカフェ「VOID A PART」と、廃ガラスと植物を掛け合わせたプロダクト「HACOMIDORI」の代表を務める周防苑子さん。

今までの経緯とUターンを考えている方へのアドバイスをお伺いしてきました。

東京のPR会社でゼロ→イチに携わる経験。滋賀の気になる人に会うため、びわ湖を3周。


滋賀県内の高校を卒業後、京都の大学へ。メディアと芸術のハイブリッド系の学部を卒業後、アパレル関係の会社に就職し、東京へ。大学時代の先輩の誘いを受け、PR会社に転職。周防さんと先輩3名がチームを組み、ジュエリーデザイナーの男性をプロデュースすることに。

商品の販売ではなく、ゼロの状態からのスタート。ジュエリーを入れる箱はどうするのか、どのSNSをやるのか、ロゴはどうするかといったことからひとつずつ決めていきました。スピード感のある、東京という都市でゼロからイチをつくる仕事に関われたことは、今に活きていると思います。




寝る間も惜しんで働いていた周防さんが、滋賀に戻ることになったきっかけのひとつは、お祖母さんの病気でした。ハードワークな日々と身の回りの整理の必要性が重なり、退職。しかし、ここではあくまで「一旦」帰るだけ。周防さん26歳の夏です。

当時、滋賀で働くことは全く考えていませんでした。家のことが落ち着いたら、京都か大阪で働こうと思っていましたね。働いていた当時のツテもあるから、編集プロダクションに行こうと。家から通えなくもない、でも京都に住むのもいいなと。それくらいふんわりしたイメージでした。


滋賀に戻った周防さんが最も驚いたことは『滋賀本』の存在だといいます。滋賀で暮らしていた学生時代には見かけなかったもの。手にとり中を見ると、掲載されているのは、全く知らない人たちばかり。海外から滋賀に引っ越してきた、Uターンしてカフェを始めた、整体をやっているなど、素敵な人たちがたくさん。

びっくりして、本に載っている気になる人全員に会いに行きました。びわ湖は3周くらいしましたね。会いに行って、話したりイベントに出させてもらったりする中で「私もモノづくりができるかも」との思いが芽生えました。

東京に暮らしていた頃に習っていたのが、ステンドグラス。そこで、まずはステンドグラスでマグネットなどを製作しました。後にリリースしたHACOMIDORIは、硝子と植物を掛け合わせたプロダクトですが、基本はステンドグラスです。


硝子を使ってもっと何かができるのではないかと思い、情報収集に励んだ周防さん。そこで出会ったのが「テラリウム」でした。テラリウムとは、植物や小動物を硝子ケースの中で飼育したり、鑑賞したりする技術。知った翌日には、1個目の試作品をつくりSNSにアップしたところ、東京時代の会社の先輩からも大きな反響が。アドバイスを受け、本格的に開始することに。



HACOMIDORIをリリース。クリエイティブディレクターと組み、新たな展開へ。


2014年7月に滋賀に戻り、11月1日には「HACOMIDORI」をリリース。その間には、祖母の四十九日やびわ湖3周、HACOMIDORIの立ち上げ。さらにWebショップの稼働、冬には初の個展と、次々に形を成しています。

参考:HACOMIDORI ハコミドリ

急ぎたいと思ったことは1回もありません。私にとっては普通のこと。誰かにやれと言われてやっていることではなく、自分がやりたいことだからちょっとくらい寝食忘れるくらいでちょうどいいんじゃないかなって。ゆっくりしたくて帰ってきたわけじゃないし、いつまでも物事が停滞している方が嫌なんですよね。結果にコミットする、FIXさせるべく動いた方がいい。


HACOMIDORIを立ち上げ、さらに次の展開について考え始めます。そしてTwitterで声をかけたのが、牧貴士さんでした。

参考:滋賀県Uターン物語 クリエイティブディレクター 牧貴士さん

牧さんのゼロからイチをつくるスピードの速さや、クラウドファンディングを含むプロジェクトへの精通ぶりに感嘆。立ち上げを手伝って欲しいと相談し、会って2回目の時点で一緒に組むことに。そして、HACOMIDORIのアトリエとなる物件探しが始まります。



当初のイメージは、アトリエ兼イベントスペース。しかし、色々な人と話すことで、イメージが拡大。VOID(=空間)をPART(=パートで)区切り、アパートの入居者の人のように、いろいろな使い方ができる場所を目指すことに。

私は料理をしないし、本は好きだけど販売できるほど持っていません。海外に行って雑貨の買い付けをする時間もありません。でも、うちの場所を利用して、うまく使ってくれる人たちがいる。スタッフであり、個人事業主である関係性です。


参考:VOID A PART


無計画さが生んだ出会い。お金を回す次のフェーズが見えて来た、今。

2年半が経過し、地方での講演の仕事なども増えてきたという周防さん。元々「なるようになる」と思っていたスタートだったそうですが、想像以上に「なるようになった」というのが正直なところだそう。

しかし「VOID A PART」の店舗面積は165平米です。大幅な施工には、多額の資金が必要です。そこで計画性という部分について尋ねてみたところ、思いがけない答えが。



「VOID A PART」の施工を手伝ってくれたのは、滋賀県立大学建築学部環境デザイン学科の学生さんです。授業の一環、外部取り組みという形でした。

電気や水場の工事など、法律的な問題が絡む部分は本職の方に依頼し、そのほかの部分、天井解体から家具の製作まで、全て学生さんが手伝ってくれました。


きっかけは、彦根市内で開催されたイベント。隣の席になった人に「物件を借り、今、一人で床を削っている」との話をしたといいます。話をした人こそが、県立大学建築学部の助教授。大学にプレゼンに行くことになり、さらにクラウドファンディングも活用。136名から177万7千円の調達に成功。

本当に助かりましたが、物件も大きく、全ての施工分を賄うことはできません。学生さんが頑張ってくれたことは、とても大きいですね。そして、出会った先生も建築学部で一番若い人。「若い子たちが勢いでやっているものも大切だと思う」との思想をお持ちで、その部分が合致したからこそ学生さんも楽しんでくれたのだと思います。



滋賀県は暮らしやすい場所。しかし「文化的なクオリティを上げないと、私のような子はみんな出て行ってしまう」との危機感も感じているといいます。その思いが、積極的なイベント開催へとつながっていました。

計画性という意味では、本当に最初は何も考えていませんでした。でも、逆にそれが良かった。もし、銀行と話して資金繰りをして、大工さんに発注していたら、学生さんとは出会えませんでした。1学年50人のうち、31人が現場に出入りしてくれて、今もアルバイトをしてくれていたり、滋賀出身ではない子が「VOIDと大学に寄るために、滋賀に来ました」と帰って来てくれたりするのは、とても嬉しい。




周防さんが愛しているのは、古いものたち。改装にも、古材をふんだんに使用しています。一見雑な仕上がりのようで、実はギミックが効いている。例えば、角を出す作業は大変手間がかかるものです。

周防さん自身も、当初は「意味がある?」と思っていたそうですが、完成した姿を見て納得。空間がビシッと決まっていました。建築について深く勉強している学生さんたちが関わってくれたからこそ、知りえた知識です。

今までは、色々取材してくださった方に「貧乏暇なしです」と言っていました。赤字ではなく、困ってはいないけれど、潤ってはいないレベル。ただ、最近「経営者」として見られていることを強く感じます。

ただ元気のいい20代の女の子が、滋賀にUターンして頑張っているという状態からの変化ですね。30歳を目前にして、次にやるべきことは、人を雇用したり、売りを立てて地域に納税したりすること。お金を回すための、次のフェーズが見えてきました。





「滋賀発」ではなく、純粋なプロダクトとして県外・世界で戦いたい。


滋賀は少し前まで人口も増加しており、学生の比率が高い県です。周防さん自身も、滋賀で暮らすようになり、豊かないい県だと思う機会も増えてきたといいます。

しかし、他府県の友人や海外の友人との会話や、旅行先から俯瞰的に滋賀を見たときに感じるのは「昔と何も変わっていない」ということ。滋賀県を愛し、滋賀県の中にいる人しか、滋賀のことを言っていない現状。

実体験から「関東の人、滋賀がどこにあるか知らないよ」と発言すると、露骨に嫌な顔をされることも多いそう。変わるためには、まず「そうだよね」と受け入れること。そして、その上で行動しなければ、変わることはないのにと、大きなもどかしさを感じる日々。


私のアトリエも店も、滋賀に構えています。びわ湖沿いにあります。そして、HACOMIDORIは、個展やWebの発信、海外展開をやっていきます。ただ、そのときに滋賀発と言うつもりはありません。純粋なプロダクトとして戦えるように育てたいというのが、私の思い。

自分のものを良くしていきたい、アップデートしたいとの思いはありますが、今はぶっちゃけ滋賀やマザーレイクを考える余裕はありません。でも、私が頑張ったら滋賀や彦根市に納税できるし、滋賀に来る人が増える。それは、いいことだと思います。




本業はHACOMIDORI。機嫌良くバランスを取りながら、居心地のよい暮らしを。


周防さんは「マザーレイクを背負いません」とはいうものの、取材当日の壁面にはびわ湖柄のカバンが飾られていました。きっかけは、シルクスクリーンのワークショップイベントを開催した際に、ネタで誕生したびわ湖柄。余った分を捨てるのはもったいないと、とりあえず販売したところ、すぐに完売。

作家さんたちも驚く中、第一弾として50枚を作製すると、こちらもまた完売。現在壁にあるのは、第二段。過去最大のヒット商品となりました。



私自身、びわ湖に対して感謝の気持ちはあるものの、持ち歩きたいほどではありません。でも自分は少数派で、滋賀県の人はびわ湖が好きだと思い知らされたできごとでしたね。何年経っても、読みは外れまくります。でも外れるからこそやりがいがあるなと。


さらに周防さんが大切にしているのは、自分で自分のご機嫌をとること。特に「VOID A PART」では、自分が居心地よく、機嫌よく過ごせる場所であることを重視しているといいます。

本業は、HACOMIDORI。しかし製作は孤独です。つくることは楽しいものの、同じ作業の繰り返しも多く、飽きることも。週の半分は製作、週の半分は店で接客をしたり、イベントをしたりすることが、バランスを取ることにもつながっています。



私にとっては、これ以上良いお店は絶対にないと本気で思っています。私の作っているプロダクトを良いと思ってくれている人と、過ごしていきたいですね。昔は全員に好かれたいと思ったこともありましたが、でもそれは無理だと気づいたから。

本当に良いと思っている人とお金を回して、協力して、過ごしていって。人生なんて暇つぶしです。それで暇が潰れて、暮らしていけて、そういう人に囲まれていたら幸せかな。




滋賀県にUターン後、何かを始めたい人に伝えておきたいこと



色々な人に会う中で、みんなすごくいい人だと思いましたね。はっきり言って、こういう媒体に登場する人の中で、私が一番良い人じゃない自信がある(笑)。有識者会議に呼ばれたときも、飛び道具的な扱い(笑)。

実家が滋賀なら、帰省したときに気になる人に会いに行けばいい。もし「自信ない」「だるいわ」と思うなら、VOID A PARTに来てください。コーヒー一杯、ソフトドリンク一杯、数百円で飲めますから。

そこで威勢のいい、ショートカットの刈り上げの女がいたら、それが私です。この人っぽいと思ったら「Uターン物語聞きました」って言って、話しかけてください。

「僕、農業に興味があるんですけど、いい人紹介してください」とか言ってくれたら。私、今、滋賀の農業、漁業、林業、カフェ、コワーキング、ウェブ、フリーランス、物作りとか、ケーキ作りとか、色々な職種がある中で、何系と言われたら、誰かひとり、絶対紹介できる自信があります。

ちょっと年上の人が多いですけど、兄さん、姉さん方、紹介させてもらえると思います。Webの情報を見ているだけじゃなくて、実際に人とか場所に触れ合うのが一番早いです。まずは、来てみてください。



取材を終えての感想

スピード感に驚くと同時に「これが私のふつう」との言葉に、とても納得しました。また「気になる人に会いに行く」「自分の機嫌をとる」「仕事のバランスをとる」の3つのポイントは、多くの人に当てはまる部分だと思います。計画性なく動いたことが良い結果につながっている部分と、先を見据えて動いている部分のバランスの良さに圧巻。お話をお伺いしているときの凛とした雰囲気も、とても居心地がよかったです。

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